静かーに決意する

今日は午前中
先月、亡くなられた患者さんの家へ行くことに…
当院に来院されたときには、肺癌の末期だとわかっていて、初診からまもなく余命一年半だと告げられていました。

 

もともと、その方の奥様が患者さんとして既に来られていて、
肺癌の主人に何かできることはないか、ということでした。
もちろん癌を消失させるという目的で鍼灸治療を開始したわけではなく、
手術後の痛みを和らげたり、薬の副作用の緩和、そして精神的に少しでも楽になるようにと。
去年の秋頃までは、自分の足で当院まで来られていましたが、急激に痩せていき、身体も動かなくなり、去年末からはご自宅まで往診させていただきました。
喘息やCOPDなどの呼吸器疾患をもつ患者さんは、
肩や肩甲骨まわりの筋肉や、胸郭の筋肉、いわゆる呼吸補助筋が緊張して、深い呼吸ができず息苦しくなります。
この患者さんも一緒で、ひどい時はお腹までカチカチに固くなっていました。
さらに手術痕の周囲は癒着するため、脇腹あたりが固くなり痛いのです。

身体症状もさることながら、もしかしたら一番つらかったのは精神状態だったかもしれません。
温厚だったご主人でしたが、さすがに病状が悪化するにつれ怒りやすくなりました。
本人はもちろん、介護する奥さんも非常につらい。
そんな中、なんとか私も試行錯誤して治療して、
時にはお偉い先生の本を参考にし、なにか良い方法はないだろうかと悩んでいました。
症状を楽にするのが第一優先、さらに「少しでも寿命が延びれば…」と思っていましたけど…現実は甘くない。結局、余命宣告通りの結果でした。

 
このご夫婦の友人も当院に来られていて、
亡くなった後、全然奥さんが家から出なくなって、さらには食欲もなく、とても痩せられたと聞きました。
「今はお父さんの服を見ただけで泣いているから、先生の顔見たら、思い出して余計泣くわ」と言われたのと、
自分でも「あまり役に立てなかったなぁ」という気持ちがあり、亡くなってから一度もご挨拶に行けていませんでした。

 

 

最近、ほんの少し落ち着いてきたというので、
やっと本日、その友人の方と二人で、ご自宅に伺ったというわけです。
私が行くのは伝えていなかったので、奥様は驚きながら、早くも涙がこぼれそう…

 

ご主人に
まずは長い間、来なかった非礼をお詫びし、あらためてご冥福をお祈りしました。
その後、ひとしきり話したあと、奥様にも笑顔が出てきて、最後は遺骨を前にし、三人で大笑いしていました。
「外にも出るし、ちゃんと食べるから心配しないで。大丈夫!」という力強い言葉を聞けたので、私もひとまず安心して帰ってきました。
帰り際に、奥様が
「先生のおかげで、主人は体も精神的にも楽に過ごせた。感謝しています。」
と言われました。

とても「そうでしょう!」とは受け入れられませんが、
奥様の優しいお気遣いに、私の気持ちも少し楽になりました。

 

 

 

 

治療する側である私にとっても、
いつ、その患者さんとの治療が「最後の治療」になるかわからない。

今回のように寿命が尽きて最後というケースは稀ですが、
様々な理由により治療半ばで終了ということは珍しくない。

腰痛や五十肩で来られる方も、妊娠を希望する方も
次が必ずある(来院してくれる)とは限らないわけだから

やはり一回一回の治療が真剣勝負だな。

 

帰りの道中、静かに決意したのでした。

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