小児鍼②
暑さのピークは既に終わっているとはいえまだまだ暑い日が続きますね。
さて、今回も少し長いので、さっそく本題に入りましょう。
前回は、小児鍼というタイトルでしたが、具体的な小児鍼の話しはせず、
「触れる」こと、スキンタッチがいかに大事かというエピソードを紹介しました。
今回は、その「皮膚に触れる」ことで身体に何が起こるのか、
触れることがなぜ良いのか説明します。
今後お母さんになる方、出産を控えている方、出産したばかりという方、
多くの人に知っていただきたい内容です。
突然ですが
“親が子供を抱きしめることは愛情を深め、絆を強める(そんな単純ではありませんが)”
それは何故でしょうか?
「んなもん理屈じゃなくて、愛の力じゃい!!」 それも良いですね(笑)
近年、その生理的メカニズムがわかってきました。
それは「オキシトシン」というホルモンが、おおいに関係しています。
最近はテレビでもよくオキシトシンという言葉は出てくるようになりましたので、
聞いたことのある方も多いのではないでしょうか。
オキシトシンは脳の視床下部で産出され、下垂体後葉に送られます。
血中に放出されると、ホルモンとして身体のさまざまな器官に届きます。
オキシトシンの効果として有名なのは
分娩時の子宮収縮や乳腺の筋繊維を収縮させて乳汁分泌を促すことです。
妊娠・出産時の女性にとって、とても大切な役割を果たします。
さらに
マッサージを受けているときや、好きな人と肌を合わせているとき、
われわれ人間は気持ち良いと感じ、安らいだ気分になり、幸福感を感じますが
それもオキシトシンの効果の一つだとわかっています。
生理学や心理学の研究の中に、
「安らぎと結びつき」反応というものがあります。
この反応は、自律神経の副交感神経が優位な反応です。以前、ブログでも書きましたが、
副交感神経が優位ということは、心拍数が減少し、血圧は下がり、呼吸は遅くなります。
消化管では蠕動運動を促し、性行動は促進します。
これらの反応を促すホルモンの1つが、オキシトシンです。
さきほど書いたように、
出産時の子宮収縮を促したり、出産後に乳汁の産出を促すわけですが、
もう一つ大事なことは、中枢神経系で神経伝達物質としてはたらくことです。
これによって、脳の海馬や縫線核、黒質などに届き、人のさまざまな行動に影響を与えます。
母子の絆や、信頼や愛情といった感情、グループ認識などの社会的行動に関わっています。
また人間以外の動物では特に、他の個体への警戒心を一時的に緩め、
接近行動を可能にすることで交配や集団の維持を促すはたらきがあります。
ちょっとわかりにくいですね。わかりやすい実験があります。
ヒツジの母と子を出生後1時間引き離すと、母ヒツジは授乳を拒否してしまうようになります。
ところが、1時間を過ぎていても、母ヒツジにオキシトシンを注射すると自分の子を再び受け入れるようになります。
さらには、他のメスの子ヒツジすらも受け入れてしまうのです!
自分の子供ではないのに!これはラットでも同じ実験結果が出ています。
こんな風に人や動物でオキシトシンの効果を示すさまざまな実験が行われています。
まぁ ややこしい言葉や実験などはどうでもいいので、
親子間で愛情を深めるとき、他者との親密な関係を築くとき、マッサージなど受けて気持ちいいと感じているとき、
私達の脳内では「オキシトシン」というホルモンがたくさん分泌されている
まずはこれだけ理解していただければ良いかと思います。
最後に大事な話をもう少し!
特に母子間でのオキシトシンは重要です。
生まれてすぐの赤ちゃんは、母親との接触によって、オキシトシンの受容体が増加し、
オキシトシンの影響をより受けやすくします。
その結果、母親への愛着を安定させ、信頼度を高めると同時に、ストレス耐性も高めることができます。
さらに、生後すぐの身体接触は遺伝子レベルで影響を与え、
その子供が将来、子供を産んだときには、母親から受けた養育行動を繰り返すといわれています。
つまり、子供の頃にたくさん触れられて育った子供は、自分の子供にも同じようにたくさん触れる母親になりやすい。ということです。
2003年の山口 創先生の研究
“乳幼児における母子の身体接触が将来の攻撃性に及ぼす影響”では、
健常な大学生と、心療内科に通う患者とで、幼少期に両親から受けた身体接触量を各々の発達段階ごとに想起してもらうと、心療内科に通う患者は特に幼少期に両親からの身体接触が少なかったと答えているそうです。
幼少期の身体接触が少なかった人は、将来にわたって悪影響が出る可能性を示唆しています。
はい、長くなりましたので今日はここまで!
「触れる」ことの重要性を、ここで少しずつ皆さんの脳裏に刷り込んでいます(笑)
次回こそは小児鍼の話しになる…はずです。